ヨーロッパぐるぐる記(後編 そのⅠ)

前編:https://flu-nqq.hateblo.jp/entry/20200929/1601344231

中編:https://flu-nqq.hateblo.jp/entry/20201001/1601537380

後編1:(本稿)

後編2:https://flu-nqq.hateblo.jp/entry/20210926/1632632317

 

カネ周辺の話

 この旅行記ではこれからイギリスの土を踏むことになるが、それまで訪れた国々(オランダ/ベルギー/ドイツ/フランス)の通貨はユーロで、いっぽうのイギリスはポンドとなる。当時は、1ユーロ ≒ 120円、1ポンド ≒ 140円といった為替だった。前編でも軽くふれたが、ヨーロッパの公衆トイレは有料で、だいたい0.5〜2ユーロくらいを請求される。となると、1回放尿するためにおよそ100〜200円を消費することになる(うんこの場合でも同様)。これではうかうか残尿できない。キルできるときはしっかりキルしきる必要がある。奇しくもこれは対人ゲームでも重要な考え方である。ちなみに、欧州便所界の名誉のために一言添えておくと、きほん掃除はされており、綺麗な空間であった。

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これはアートということにしておこう ブリュッセル中央駅個室

 

10月29日:移動する、そして休息する

 ここからはイギリスでの旅程となっている。パリからロンドンへの移動は、ユーロスターというものを使った。またもや電車での移動だ。この鉄道路線は、本州と北海道をつなぐ青函トンネルと同様の要領で、ドーヴァー海峡の海底をとおってイギリスとユーラシア大陸(フランス)を結ぶ。

ホテルの窓から - パリ

 さてホテル近くの換金所で手持ちのユーロ(すでになけなしである)をほぼすべてポンドに換金し、我々はユーロスターが発着するパリ北駅へ足を運んだ。駅の換金レートのぼったくりぶりにはさすがに驚かされた。換金は駅や空港ではなく、街で行おう。周囲に換金所が複数店舗あるところでは競争が発生するので店を気持ちよく悩めるであろう。

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パリ北駅のプラットフォーム一覧

 ここで、実はこの2019年10月下旬というのは、イギリスがEUから離脱をするとかしないとかでまさに揉めていた時期である。我々、特にI君は、イギリス周辺においてテロとかデモとかストライキが起こるのではないかという一抹の不安を抱えて欧州に乗り込んできていた。ここでテロとかデモとかストライキが起きようものならば、モ=サ=ミ(モンサンミッシェル修道院)へ行く列車のチケットがないだとか、朝8時半にどのようにカーン駅についていようと悩んだとか、それらの事件は唐突に些細なものとなる。なにせ旅行の半分、これからの1週間がオシャカになるからである。しかし、ここでは我々の思いとは裏腹に、物騒な事変が起こる気配など微塵も漏らさず、電車は出発してくれた。

 昼食にはパスタを車内で食した。アムステルダムで口にしたモノを下回ることはないだろうという自信を抱いており得意満面で購入した。特にストーリーもない、一般的な冷えたパスタの味がした。

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まあ新幹線みたいなもん

 14時(UTC+0)にロンドンに到着したが、もう隠すこともあるまい、ここからなんと別行動である。別にI君と喧嘩をしたということはない。これは前々から決まっていた。

 スコットランドアイラ島に行きたいという旨を、I君は夏ごろから言い出していた。ウヰスキーに目がない彼に言わせれば、ぜひかの島にある"本場"の蒸留所をその目で見たいとのことだった。僕も騙されたことにしてほいほい附いていけばよかったものの、追加予算の額は倹約家(ひじょうに丁寧な言い方をした)の僕にとっては充分に一考に値させるものだった。僕がそこまで酒に興味がないことも相まって、けっきょく別行動プランが生まれたのだった。

解散直後 - ロンドン

 アイラ島への飛行機に持ち込めないからと、ブリュッセルやケルンで買った酒類を僕に押し付けて、I君は15時発の列車で北の国へと旅立っていった。このまま深夜まで列車に乗っていくらしい。ひとり着いたばかりのロンドンに残された僕は、このあと数日後に再び彼と合流するまでロンドンでの観光時間が悠々と残されている事実を再確認した。そして、この日の残りを休息にあてることに決め、宿へ向かった。

 ところで、本旅行での疫病神は間違いなくI君である。僕はI君と合流するまでロンドンとその近郊で自適な暇つぶしトラベルを謳歌していたし、合流後はまた事件が発生したためである。

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おへや この"普通"というのがありがてえ

 少しの物見遊山を行い、地下鉄でしばし移動し、宿近くの繁華街にあったアラビア語が書かれているバーガーショップで「Quarter Pounder Meal」というセットを手に入れ、食べる。価格3.0ポンド。Quarter Pounderとは肉の重さのことである。

 夕方に到着した宿は、前述のとおりロンドン中心街から距離があった。チェックインの際に迎える人などはおらぬ。メインドアの暗証番号がこれこれで、君の部屋の鍵はそのまま部屋のドアに刺さっておるぞというチャットが宿主から届いたのみである。ところが、むしろこの不干渉具合が自分にとっては心地よく、内装の管理も十分だったので、とても滞在しやすかった。3日後のチェックアウト直後に記したBooking.comのレビューをそのまま貼り付けておく。

 「清潔という印象が強く、掃除は行き届いています。徒歩5分以内の場所に飲食店、スーパー、薬局、コインランドリーがあり、滞在に適しています。絶妙な郊外地区に位置しているので、旅行者としてではなく、住民として滞在している感覚を味わえます。」(匿名-一人旅;原文ママ

 

10月30日:街(ロンドン編Ⅰ)

 有名どころの観光スポットはI君と後日周回する予定にしていたので、赴く場所の候補は特になく、ここ3日くらいの僕はただの暇なロンドン市民である。ロンドンには著名な博物館が多いので、それらを見物することにした。ちょうど向かっているとき、I君から電話がかかってきた。アイラ島でレンタルした自転車が唐突に自壊したらしい。I君が向こうで不運を吸収しているおかげで、こちらではとても平穏に観光できている。

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まだEUの旗を掲揚しているときのロンドン

 午前に寄ったのは、ロンドン自然史博物館だ。自然史の"大英博物館"と呼ばれる規模のもので、それなりに人口に膾炙しているわけであるが、本当の大英博物館ほどの人気を博してはいない。したがって観光客がこぞって訪れるようなスポットではなく、一見したところ近郊に住む子ども連れの家族が多く訪問しているようだった。ついでに併設されている科学博物館にも入った。この2つの施設を合わせたような博物館は日本にもあり、それが上野にある国立科学博物館である。展示内容もひじょうによく似ているが、似ているからこそ、日本人にとっては母国語で楽しめる上野の博物館のほうがコンテンツとしての得点は高いだろう。

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月のクソデカ模型

 昼食後、店を立ち去るときにぞんざいな扱いを受けた気がしたが、そういえばチップを払っていなかった。 

 侵略と略奪の歴史が格納されているとして名をはせる大英博物館(ここでは本物)であるが、ここの見物には多くの時間が必要だと見積もっていた。それこそ、つぶさに見て回るのならば半日をかけても足りないであろうと。それにより、後日I君と回る予定は企てられていたものの、僕はここで軽く全体像を目に入れておくことにした。ここでは所蔵品についてはこまごまとは述べない。館内のありさまについては、公式Webサイトhttps://www.britishmuseum.org/collection/galleries)を参照されたい。

読める…読めるぞ…(英語)

 僕はつい先ほど、博物館は母国語で楽しめるほうがよいといった趣旨のことを申したが、日本語で吸収できたほうが都合がよいと思うのは展示のタイトルや説明の箇所だけであって、そのほかの部分ではない。とくに、たまに博物館に足を運んだとき、子どもの疑問質問にたいして、分からないと白状するでもなく、まともに答えることができない親のはかない会話を耳にすると、前途を思って曲々しい気持ちになる。ここではそのような会話が展開されていたとしても、耳に収着してこないので、外国の博物館はその点では都合はよかった。

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ロゼッタストーン近辺 僕は左下の子どもに怪訝な顔をされている

 博物館の内部は、いくつもの壁によって区切られているため、表面が相当積ある。それこそ小腸が内側の柔突起をもってしてやっていることと同じ要領である。その展示壁をなぞるように閲覧していくために走破距離はかなりかさむ。こともあろうに3か所も訪れてしまった僕の足は目算どおりに疲弊した。疲弊したので宿へ戻って休まねばならない。次の日はちょっと郊外の街へ出かける予定であった。テムズ川の情景を片目に、前日と同じような時刻に宿に帰った。

一般的なロンドン中心部の建築

10月31日:オックスフォードでぇ学

 I君がスコットランドで酒に酔っている間、僕もロンドンから出てほかの街に行きたくなった。選択肢はいくつか思い浮かんだ。まずはストーンヘンジを見に行くというもの。しかしこれはツアーが事前予約制であるので諦めざるを得なかった。つづいてレディング。この街にはECMWF(ヨーロッパ中期予報センター:https://www.ecmwf.int/)の本部がある。ちょうど卒業研究をしていた頃だったので、使っているデータの出元としてお世話になっているこの気象センターの見学にでもと案じたが、見学など受け付けている様子もない。この街も諦めることにしたため、残りの案はオックスフォードとケンブリッジになった。両者とも有名な大学があることで名高い街であるが、綴りの雰囲気がよかったのと、ハリーポッターの映画ロケが行われたスポットがあるとのことで(いうほどファンというわけでもないが)、オックスフォード[Oxford]行きを決断した。

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選択肢たちの場所

 目的地への列車が出発するパディントン駅でなぜか改札を通過できず、案内のおばあさんに説明を請うたが返事のブリティッシュ言語が早口だしよくわからん発音だしで理解できなかったので四苦八苦した。対話は棄権したが最終的に改札は通過できた。

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駅にいた演奏隊

 ときに、なぜこの2週間、我々がわが物顔で欧州の列車移動を欲しいままにしているかというと、「ユーレイルパス」というチケットを前もって購入していたためだ。ある日数分だけ、列車に乗り放題になるという趣意のものである。海外旅行者限定のチケットであり、ヨーロッパでは購入することができないのだが、じつは我々、というより専ら不行き届きの僕なのだが、そのことに出発の3日ぐらい前まで気づいていなかった。今はモバイルパスも導入されているようだが、当時はたしか紙のパスしかなく、公式Webストアで購入して自宅に郵送してもらい、そして入手するという方式がとられていた。さてそろそろ買うぞとサイトを開いたら、注文から配達まで7~10日と書いてある。すなわち、3日前に注文すらしていない時点でオワリである。

 そのときはおおいに焦燥したものだが、運もよく、公式と同等の価格で即日販売している代理店を発見し、事なきを得ている。このアクシデントを以降に投影すると、このような経験をしておきながら、モ=サ=ミ行きの事故(詳細は前編)を起こしたともいえる。旅行にトラブルはつきもの、と、言っておこう。

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東北新幹線 仙台-盛岡間の各駅停車のようなガラガラ

  到着し、駅でリュックが全開のまま気づかず歩いていたのを同年代の青年に指摘していただいた。

 しばしばオックスフォードは、「大学の中に街がある」と表現される。遊行してみると納得である。大学がもつ由緒と風土を街全体に拡張したようになっている。大学の校舎も、そのへんの土産物店も、歴史を察させる統一感のある建物で構成されているし、その状態が長いあいだ維持されているらしいことが伺えた。僕が卒業した一橋大学にも昭和初期からの建物が2、3あり文化遺産としてありがたがられているが、そのことがすこし滑稽に思われた。

 どこを切り取っても映画のロケに使えそうなものだが、事実に撮影がされたという食堂や階段(下写真)を見て回った。

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実際に大学の食堂として使われているため昼食時には入れない

ハリーとマルフォイのホグワーツでの初対面の場所であり、ネビル・ロングボトムが逃げ出したペットの蛙を捕獲したところをマクゴナガル先生に睥睨された階段

 そういえばロンドン市街では土産物屋をあまり見かけなかったことを思い出して、理由は分からないがそこらじゅうにギフトショップがあるこの街でイギリス(ロンドン)土産を購入することにした。父方と母方の両祖父母宅に置物でも買ってきなさいと親が奨めるので、要望通りのものを探していたところ、アンティーク調のアルミのロンドンバスの置物が目についた。サイズもトイレや玄関に置くには丁度良いだろう。そのようなことを考えて手にとりながら検討していたら、店員の男が僕に接近してくる。話すのを聞くと、いま20ポンドの値札が貼られているが、君が望むのであれば17ポンドに割り引いてやると言う。だったら初めから17ポンドで売りたまえ。

 すぐさま買おうと思ったが、あまりに造作なく値下げするから、間違いなくもう少し価格を下げる余地が残されているなと考えた。そこで2つ買うから合計30ポンドにできるかと伺ったところ、できると二つ返事で返されてしまった。店側としてはさらに安い値段で販売しても構わなかったのだろう。しかし自分から提案した手前があるのでこれ以上の交渉はご遠慮申し上げて、一つ頭15ポンドの代金で目的物を入手した。

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たしかこれは校舎

 時間が余ったのでまた博物館である。だが今回は暇だから足を運んでみたというものではなく、本当にお勧めの観光スポットとして紹介されているようだから訪れたのだ。名前はオッスクフォード自然博物館といい、昨日ロンドンでも自然博物館に行った僕は自然博物館慣れしてしまっており、展示物の差異をほうほうと眺めるだけだった。

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ほね

 夕方になったのでロンドンに戻り、宿に帰った。いまの宿で過ごす最後の夜となる。

 

11月1日:ロンドン暇つぶし検定 

 I君とはこの日に再会する予定で、夕方前あたりにはロンドンに着くのだろうなと推し量っていたところ、到着は20時だと言う。20時までまた暇をつぶさねばならなくなった。

ロンドンの地下鉄で掴まる革

 時間だけあってもやることはあまりない。ビックベンやバッキンガム宮殿は眺めるだけだし、ケンブリッジに行く心の準備はしていない。ひじょうにのんびり荷物の準備をして、共用キッチンでコーヒーを淹れていると、突然オヤジが顕現して、話しかけてきた。初日に僕にチャットで入室の指示を送ってきた宿主本人であった。1年も前のことなのでここでの雑談の内容はよく覚えていないが、何を言っても笑いながら頷いてくれそうな親しげのある雰囲気をオヤジが醸し出していたことだけは覚えている。チェックアウトは10時の予定だったが、暇なのでもう少し遅れて出発したいと言ったら、いつまでも居てよいと返事をされた。どこまでも友好的な人物である。ただ、いつまでもは居ない。

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ゆりかもめ感のあるお電車

 宿を出て、荷物を持ってロンドン中心街に到着したときには昼どきになっていた。今回の暇つぶしでは、中心街南部のグリニッジ地区に出向いた。グリニッジ天文台は翌日の観光予定だったので、いまに行ってやるからなと高台の天文台に睨みをきかせ、僕はそばの国立海洋博物館に入って行った。自然博物館慣れしてしまった僕であるが、海洋博物館は嗜めた。中世の大航海時代、近代の世界大戦におけるイギリス船舶の歴史に関する知見をすこし獲得した。

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昼食 60秒後に紅茶で舌を火傷する

 少し散策するともう16時あたりになる。暇などいくらでも潰せるものだ。この場所から、I君と宿泊する次の宿までなかなか距離があるらしい。先にチェックインしておいて、ゆるく待つことにした。

 駅に向かうときにテムズ川の下をくぐるトンネルがあったので利用したのだが、1902年につくられたものらしい。西暦が100年間違っているのかと思った。内部では天井から水がしたたり落ちてくる。全盛期の曙あたりが歩いたらたちまち崩壊するのではないかという、ちょっとしたいらない恐怖感を味わうことができる。

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1902年といえば日英同盟

 値段と設備しか確認せずに宿を予約した我々だったが、当然つぎのような問題も生じうる。 ホテルはたいへん辺鄙な場所にあった。中心街から電車とバスと乗り継いで1時間半、さらに最寄り駅から徒歩15分という有様であった。ホテルの名前にLondonなどとついているが本当に名ばかりである。短気なI君は間違いなく憤慨するなと思っていたところに、「土産をたくさん買ったから荷物が多いよ~」みたいな連絡がくる。いまからその荷物をもってこのホテルまで来てもらうので気合を入れてほしい。

ロンドンまた明日

 憤慨しているI君の荷物をホテルに置き、2人で小さな繁華街に繰り出した。中華料理屋で飲食したが、我々が日本人だとわかると、中国人の店員が去り際に「ありがとう」と言ってくれた。閉店間際のスーパーで次の日の朝食を購入し、観光に備える。やっと、暇つぶしではないロンドン行楽がはじまる。

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チャーハン、というか米がうめえんだわ

 

つづきの後編 そのⅡ:https://flu-nqq.hateblo.jp/entry/20210926/1632632317